【奥の細道】 脚本No.2 教秀 作
最終更新: 2019年8月5日
(帰りのふもとの旅籠)
旅籠呼び込み『旦那、日も暮れてきましたで、わが宿へお泊まりくだせいまし。何ねぇ、つい先日、この先の峠で物取りがありやしてねぇ、そりゃ、大変だったんでさあ。悪いことは言いません。お安くしておきますぜ。』
宗房『先を急ぐので、お断り申す。』
呼び込み『ちぇ、ひとが親切に言っているのに、何があっても知りませんぜぇ〜』
(峠から故郷が見える、月がこうこうとひかり、鈴虫の音が聞こえる)
(藩屋敷)
良忠『して、季吟先生はどうであった。』
宗房『たいそう殿のことをお褒めになっておられました。』
良忠『書状を読んだが、実に季吟先生の助言は的を得ており、大変勉強になる。』
宗房『殿、私めも峠からの月を見ながら、句を詠んでみました。』
良忠『ほう、それはおもしろい、詠んでみぃ。』
宗房『ははぁ、では。』
『月ぞしるべこなたへ入せ旅の宿』
(明るい月を道案内に宿にお入りくださいよ)
良忠『ははっあ、これは愉快。そちの先ほどの帰路の話と通じておるな。』(二人の笑い声)
(良忠病床のシーン)
良忠『私はもう長くはない』
宗房『何をおしゃいます。若殿こそ、近い将来、藤堂藩を治めるお方。』
良忠『お前に最後の命を申しつける。』
宗房『はい』
良忠『私が亡くなっても、私の意志を継ぎ、俳諧を続けよ、わかったな。頼んだぞ。よいな。』
(宗房、良忠の手を握り、泣き崩れる。)
宗房23歳は故良忠公(享年25歳)の遺髪を高野山報恩院に納める一団に加わり、菩提を弔い、仕官を退いた。