【奥の細道】 脚本No.5 教秀 作
(神田上水場 工事現場のシーン)
弥助『桃青さま、大変でさあ。め組の奴ら、勝手に人夫を増やしやがって、倍の給金を出せって、大騒ぎを起こしてまさあ。』
桃青『して、そのめ組の人夫かしらは、なんという者じゃ。』
熊吉『たしか、井蔵とか言ってました。』
桃青『熊吉、即刻、ここへ井蔵とやらをよんで参れ。』
(井蔵との会見)
井蔵『俺らだって、仲間がいて、必死でおまんま食ってるんだ。そんなこと、お前ら、これっぽちも理解できねえんだよ。』
桃青『これまでの井蔵どのの話、よ〜わかり申した。倍に増えた人夫分の給金、まちがいなくお支払いいたしましょう。』
(弥助・熊吉、驚きの声)
井蔵『こいつは、いい。話がわかる旦那だ。』
桃青『ただし、ひとつだけ条件があります。』
井蔵『なんだ、その条件とは。』
桃青『井蔵どのにとっては、簡単なこと。』
(弥助・熊吉、身をのりだして、言葉をまつ)
桃青『その条件とは、工期を半分にすることでござる。』
『さすれば、当方も助かるし、め組の方々も次の仕事で働ける。』
井蔵『なあんだ、そんなことか。給金が増えた分もらえりゃ、お安いご用だぜぇ。』
桃青『それでは、早速お頼み申す。』
井蔵『がってん、承知した。』
(井蔵が走り去ったあと)
弥助『桃青どの、一時はどうなることか、肝をつぶしましたよ。』
桃青『これも、俳諧のおかげですよ。いつぞや、弥助どのは、俳諧は所詮遊びで銭は産まぬと言ったことがありましたね。』
弥助『え、俺、そんなこと、言いましたっけ。』
桃青『まあ、忘れたのならいいですよ。その時の答えを今お返しいたします。俳諧は生きる知恵を産むのです。』
弥助『う〜〜ん。』(現場監督桃青の笑顔と工事で働く人々の様子)