【奥の細道】 脚本No.8 教秀 作
最終更新: 2019年8月11日
(深川の草庵)
門人李下『宗匠さま、今日は珍しいものを持ってまいりました。』
桃青『ほぅ〜、それは何ですか。』
李下『これは、芭蕉といい、珍しい花が咲くのですよ。』
桃青『へえ〜、早速、庭の門口へ植えてみましょう。すくすくと育ってくれよ。』
(それから、数ヶ月たち)天和元年1681年38歳
桃青『芭蕉野分して盥に雨を聞夜哉(ばしょうのわきしてたらいにあめをきくよかな)』
杉風『先日は、雨がひどくて大変でしたね。たらいの雨音により、静けさと侘しさを感じます。宗匠さまのお気持ちがよく伝わってまいります。』
桃青『そちの生簀の番小屋を草庵として住まわせてもらっておることに感謝しています。』
杉風『何をおっしゃいます。魚問屋の仕事で誰もいなくなった番小屋にいてもらっているだけで、こちらも助かっております。』
桃青『わたしは李下にもらって育てた芭蕉がこの地にあい、すくすく良く成長していく様子をみて、縁起が良いと感じています。そこで、思い切ってこの芭蕉にあやかり、この際、俳号を桃青あらため、芭蕉とすることに決めました。』
杉風『さすが宗匠さま、勘所は天下一品でございますね。素晴らしいお名前と存じます。』
桃青『玄関の立て札も泊舟堂あらため、芭蕉庵とすることにしました。』
杉風『それまた、どんぴしゃりでございます。』
桃青『これも、李下のおかげです。わたしは杉風はじめ良い門人たちに囲まれ、とてもしあわせです。』
(隅田川のほとりに立ち、物思いにふけり、草庵へ戻り、短冊に句をしたためる日々)
(天和2年1682年八百屋お七の大火で、草庵と周り一面が燃え、その後の焼け野原に立ちつくす)
(深川の臨川寺の中庭にて)
仏頂禅師『おお、これは芭蕉どの、ご無事でありましたか。』
芭蕉『仏頂どのの炊き出しにより、何とか生きることができております。本当にありがとうございます。』
仏頂禅師『この世のものは、ほんの一瞬のもの、何と はかないものか。』